在留特別許可とは、本来であれば退去強制されてしまう外国人に対して人道的な観点から日本での滞在を許可する制度です。入管法上は、日本社会の秩序維持や出入国管理秩序の観点から好ましくない外国人を退去強制手続きにより日本から退去強制させることを原則とします。しかし、退去強制対象者の中には、日本社会との結びつきが強い場合や人道上の配慮を要する場合があります。
そこで、在留期間の更新または在留資格の変更をせずに在留期間が過ぎてオーバースティ(不法滞在)になった場合でも、下記ような「特別な事情」がある場合には、入管法上、「法務大臣の例外的な恩恵措置」として在留が認められる場合があります。これが「在留特別許可」です。
※詳細については下記の「在留特別許可に係るガイドライン」を参照ください。
在留特別許可の許否の判断に当たっては、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性、更には我が国における不法滞在者に与える影響等、諸般の事情を総合的に勘案して行うこととしており、その際、考慮する事項は次のとおりである。
積極要素については、入管法50条1項1号から3号に掲げる事由のほか、次のとおりとする。
1.特に考慮する積極要素
(1)当該外国人が、日本人の子または特別永住者の子であること
(2)当該外国人が、日本人または特別永住者との間に出生した実子(嫡出子または父から認知を受けた非嫡出子)を扶養している場合であって、次のいずれにも該当すること
ア、当該実子が未成年かつ未婚であること
イ、当該外国人が当該実子の親権を現に有していること
ウ、当該外国人が当該実子を現に本邦において相当期間同居のうえ、監護および養育していること
(3)当該外国人が日本人または特別永住者と婚姻が法的に成立している場合(退去強制を免れるために、婚姻を仮装し、または形式的な婚姻届を提出した場合を除く)であって、次のいずれにも該当すること
ア、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助していること
イ、夫婦の間に子がいるなど、婚姻が安定かつ成熟していること
(4)当該外国人が、本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し、当該実子を監護および養育していること
(5)当該外国人が、難病等により本邦での治療を必要としていること、またはこのような治療を要する親族を監護することが必要と認められる者であること
2.その他の積極要素
(1)当該外国人が不法滞在者であることを申告するため、自ら地方入国管理官署に出頭したこと
(2)当該外国人が、[入管法]別表第2に掲げる在留資格で在留している者と婚姻が法的に成立している場合であって前記1の(3)のアおよびイに該当すること
(3)当該外国人が、同別表第2に掲げる在留資格で在留している実子(嫡出子または父から認知を受けた非嫡出子)を扶養している場合であって、前記1の(2)のアないしウのいずれにも該当すること
(4)当該外国人が、同別表第2に掲げる在留資格で在留している者の扶養を受けている未成年・未婚の実子であること
(5)当該外国人が、本邦での滞在時間が長期間に及び、本邦への定着性が認められること
(6)その他人道的配慮を必要とするなど特別な事情があること
消極要素については、次のとおりである。
1.特に考慮する消極要素
(1)重大犯罪等により刑に処せられたことがあること
(例)
(2) 出入国管理行政の根幹にかかわる違反または反社会性の高い違反をしていること
(例)
2.その他の消極要素
(1)船舶による密航、もしくは偽造旅券等または在留資格を偽装して不正に入国したこと
(2)過去に退去強制手続を受けたことがあること
(3)その他の刑罰法令違反またはこれに準ずる素行不良が認められること
(4)その他在留状況に問題があること(例:犯罪組織の構成員であること)
在留特別許可の許否判断は、上記の積極要素および消極要素として掲げている各事項について、それぞれ個別に評価し、考慮すべき程度を勘案した上、積極要素として考慮すべき事情が明らかに消極要素として考慮すべき事情を上回る場合には、在留特別許可の方向で検討することとなる。
したがって、単に、積極要素が一つ存在するからといって在留特別許可の方向で検討されるというものではなく、また、逆に、消極要素が一つ存在するから一切在留特別許可が検討されないものでもない。主な例は次のとおり。
「在留特別許可の方向」で検討する例
「退去の方向」で検討する例
一つ注意していただきたいことは「不法滞在を入管に出頭申告しても、不法滞在の状態が解消されたわけではない」ということです。出頭申告された方の中には「入管に不法滞在を申告(在留特別許可を懇願)したので、違法状態は解消された。」と考える方もみえますが、それは間違いです。入管に出頭申告しても、不法滞在の状態が解消されたことにはならず、在留特別許可が認められるまで原則として働くことは認められません。つまり、在留特別許可が認められるまでは、警察に入管法違反(不法滞在)で逮捕されることもあるのです。
出国命令制度とは、日本に不法滞在している外国人に自主的に出頭させ出国させる制度です。一定の要件を満たし、自ら出頭した不法滞在者は身柄を拘束されることなく日本を出国することができ、この場合、帰国後の入国拒否期間は1年に軽減されます。(通常は5年間、場合によっては10年)
問題は、この出国命令制度と在留特別許可申請の選択です。例えば、外国人配偶者が不法滞在している場合、①退去強制手続に基づいて在留特別許可を求める方法と、②出国命令制度を利用して一度出国させて後に再度呼び寄せる方法が考えられます
①の場合、1年の入国拒否期間を待って「日本人の配偶者等」などの在留資格認定証明書の交付申請をした上で再度来日することは理論上可能です。しかし、入国拒否期間の経過と在留資格の付与は全く別の問題であるため、1年の入国拒否期間経過後に在留資格認定証明書の交付申請をしたからといって必ずしも認められるとは限りません。
これに対し、②の場合、日本で引き続き生活できるという利点はありますが、一方で、最終的な結果が出るまで時間がかかり精神的につらい、そして、その間に警察官の職務質問により逮捕され入国管理局に収容される可能性がないとはいえないという問題があります。
在留特別許可を検討される外国人は②の方法を取る場合が多いようですが、いずれの方法をとるべきかは個々の事情により異なり、悩ましい問題です。